「次は私の服着てみるといいよ、持ってくるからさ」
睫毛の長い彼にそう言ったのは、貸し出しの女装用の衣装がぶかぶかだったから、ただそれだけ。化粧をしたらとても可愛かったのに衣装は緩すぎた。
きっと私の服も入るだろう、そんな小柄な男のひと。
化粧を施して 赤い下着と黒タイツを着せて。
私の赤いワンピースを着せて、ロングのウィッグを被せる。
「ちょっと、私みたいじゃない?似てる、」
なんて冗談混じりでそんな事を言った。
ベッドに座らせ、背後に回る。
後ろ手に縛る。縄を二の腕に這わせた時ときに、感じた。
私だ。刺青の無い私。
二十歳より前の、少女の頃のわたしだ。
首筋がゾワっとした。だって、私がいるから。
私を縛る。私が。
きつく縛る。締め付ける。締め付けられる。
自由を奪う。自由を奪われる。
麻縄の締め付けを肌に感じる。締め付けているのは私。
うつ伏せにされて少し苦しい、脚まで自由を奪われてしまった。
手のひらに触れる。
触れているのも、触れられているのも。
わたしだ。
私はわたしを縛り、わたしは私に縛られている。
顔は見れなかった。それがとても気持ちよかったから。
わたしでなくなるのは少し惜しい気がした。
縄を解き、ペットボトルを差し出した。
わたしは喉が乾いていたから。
わたしの頭を私の膝に乗せ、部屋の明かりを全て消した。
私は暫く何も言わなかった。
わたしは何も言って欲しくなかったから。
十三花
Author:十三花(TOMiCA )
拠点を名古屋から東京に移し、SM活動中。
まだまだ勉強中ですが、緊縛が好きです。
楽しいことが大好き。
SM以外の日常的な事も日々呟いています。