2ntブログ

13th floor

おいで。








おいで、ほら、こっちおいで。


私は見つめる、黒縁の、分厚い眼鏡の奥を。


仄暗い部屋、空調の音。


私は優しく笑う、おいで。


人差し指と中指に挟む細い紫煙。


奴はなかなかこっちに来ない。


こわいよ、こわいよーと情けない声を絞り出して。


おいで、ほら、こっちおいで。


私の指に僅かな感触。


やっと、こっちに来た。
(叫び声。)


その瞬間爪先まで痺れが回っていく。


思わず私も声が漏れる。


ああこの痺れは何だか懐かしい。


少女の頃のキスに似ているけれど、それよりももっと。







ガラスのテーブルに置いてあった彼の煙草。

なんとはなしに、勝手に、一本手にとって、口に咥えて火をつけて。

こっちおいで。

と、呼んでみました。

こわがりながら、それはそれはこわがりながら。

彼はこっちに来たのです。

さっきまで彼の煙草だったそれは私の煙草になって、その煙草の火に自らの乳首を押し付けて来たのです。

火と乳首がぶつかる瞬間を私は見ていません。

瞳を見つめていたから。

その指に微かに感じた返りに、指先、足の裏、爪先まで、痺れていくのを確かに感じました。

気持ちいい。

それは少女の頃のキスのように。それ以上に。

乳首に付いた煙草の灰。

大きく出張った腹の下の、半分に裂けておかしな形のそれは勃起し、更におかしな形になっていました。


「おいで。」
来て、より、来なさい、より、来いよ、よりも強い言葉。

私の好きな言葉。

私は、すっかり大人になって、少女の頃よりは鈍感になっている気がしていたけれど、ちっともそんな事は無いという事を教えてくれてありがとう。




私は、取り返しのつかない絶望のような何かに
手招きされている気がします。



十三花


  1. 2018/08/23(木) 15:58:29|
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十三花(TOMiCA )

Author:十三花(TOMiCA )
拠点を名古屋から東京に移し、SM活動中。
まだまだ勉強中ですが、緊縛が好きです。

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