「今までの経験の中で、自分が一番自分だった」
もしも、ドラえもんの道具が壊れていてあの時しずかちゃんを助けに行くことができなかったらどうなっていたのでしょうか?
誰も助けに来なかったらどうなっていたのでしょうか?
「助けに来なかった場合」の物語を考えるのが好きだった。
ずっとあのまま囚われているしずかちゃん。
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囚われのお姫様に憧れていたというそのひとの普段の姿を私は知らない。
女装サロンで艶やかに化粧を施され、小花柄のワンピースを着ている「彼女」に会うのは二度目だった。
初めて会った時は女装サロンで撮影の為に縛った。
ずっと穏やかな空気のまま。
【もしも。助けに来なかったら?】
幼い頃の空想の世界は私のそれと交わる。
そんな空想の世界の扉を閉めて生きてきたひと。
そんな空想の扉を開いたまま奥に進んだ私。
鏡の前。
小花柄花柄のワンピースの上から麻縄を這わせて身動きを封じる。
乱暴にボールギャグを噛ませる。
ー誰か助けに来るかな? 呼んでみたらどう?ほら言ってみな、 「たすけてーー」 って
うまく発音できない「彼女」に丁寧に乱暴する。
吊り上げる、下ろす、あらゆる姿で縛る。
ずっと縛り続けていた。
汗をかく、乱れる、捩らせる、喘ぐ。
果てる。
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「今までの経験の中で、自分が一番自分だった」
ラブホテルに入るのすら初めてだったという「彼女」は正気を取り戻す少し手前くらいにそう言った。
幼い頃、布団を被って思い描いたという「囚われのお姫様」。
自分の中の空想の自分。
あのひとの中のあの子。
それを引き摺り出すことができた気がしたけれど、私の中の私もすっかり引き摺り出されてしまった気がして、ほんの少し恥ずかしくなって、夏休みの前の夜を思い出しました。
2024年6月28日金曜日午後5時をすぎた頃。
私は新宿歌舞伎町のラブホテルでとある女装をした男性にはんだごてで火傷を負わせました。
それは彼、いえ、彼女に懇願されたのです。
雨。
私と彼女はいつも昼過ぎに新宿駅で待ち合わせをする。
それはとても特別なこと。本来私がホテルの扉を開くことで会う関係だから。
チェックのミニスカートとハイソックス、白髪混じりのロングヘア。
私は彼女をすぐに見つけることができる。
あそこのソフトクリーム美味しいんだよね、
そんな話から
地下街でソフトクリームを食べる。
まるで女友達のようで、姉妹のようで。
それから一度解散をして、私はSMの道具がぎっしり詰まった大きなキャリーバッグを取りに行き、彼女の待つホテルへ向かう。
つま先でしか立つことのできないバレエブーツ。
麻縄。
そして彼女が鞭職人にオーダーしたという新しい一本鞭。
それらを使って私たちは何をするでしょう。
私は奴隷を調教する女王様でしょうか。
彼女は私の従順な奴隷でしょうか。
それらを使って私は、彼女を「調教している」
様に見えるかも知れない。
それらを使って私たちは対話をする。
たまたま 私たちが対話しやすいのがその形だっただけなんだと思う。
彼女は私の奴隷だとは思っていない。
敢えて言うなら生徒という言葉が似合う気がする。
そして、彼女が用意したはんだごてを温める。
前回会った時にお願いされたこと。
エビの絵を描いて欲しいとお願いされた。
奴隷が女王様に忠誠を誓うなら、きっと女王様の名前を入れるはずだ。
こんなふうに対話している私が「たまたま」絵を描くことが得意だからやって貰いたくなったんだ。
温めたはんだごての先を鼠蹊部に載せる。
失敗は許されない。
熱がる彼女を愉しんだり心配したりする余裕はない。
私は肌の上に火傷で絵を描く。
行為を切り取るとハードなSM調教をしている女王様とその奴隷に見えるんだろう。
だけど私たちには私たちなりの特別な関係があって、それで私たちはその時間は最も近くに繋がる。
彼女がオーダーした一本鞭は、これから様々なパーティーで出会う人に打ってもらうそうだ。
だけど、初めの一発目は私。
この特別な関係性。
彼女は私の長い髪や体を彩る刺青に憧れている。
憧れの先生と可愛い生徒の研修。
さよならする頃には雨は上がった。
その日の夜に彼女からメッセージが届いた。
本日は☔のなか、ありがとうございました☺️ソフトクリーム、おいしかったですよね~☺️
いろんなことをしたのにソフトクリームか!とひとしきり笑った。
彼氏と彼女、女王様と奴隷、飼い主とペット。
様々な関係があるけれど、私たちには私たちの新しい関係性がある。
それは、誰にも邪魔させない。
Author:十三花(TOMiCA )
拠点を名古屋から東京に移し、SM活動中。
まだまだ勉強中ですが、緊縛が好きです。
楽しいことが大好き。
SM以外の日常的な事も日々呟いています。