これは私の身体に、彼岸花が咲いてすぐの頃のお話。
肥満体型ですぐに汗をかく男だった。年齢は確か当時の私の倍くらいだった筈だ。
彼は私に殴られたいという願望をすらすらと話した。
だけど数年前に「うっかり」結婚して妻がいるので痕は残せない。
だから私は彼に馬乗りになって、妄想をすらすらと話した。
私が君を殴るのね、たくさん殴って歯が折れるの、それでね、私の拳は血塗れになって、そしたら私は君の歯がなくなった口に拳を突っ込むの、そうしたらきっとぬるぬるで気持ちいい、
そんな話で彼は高揚し、顔を真っ赤にさせてたくさん汗をかいていた。
その度に髪が畝る。
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ある日彼はこんな提案をした。
「水責めをしてください、それなら風邪を引くだけで痕は残りません」
まだ空気の冷たい3月の初めの夜、私は裸の彼をベランダに放り出した。
そしてペールに氷水をはって、氷ごと頭からかけた。
それを何度も繰り返した。
そしてわたしは部屋の中に入り、扉を閉めた。
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それから暫くして、暖かいお湯につけたタオルを一枚、彼に向かって放り投げた。
泣きながら彼はこう言った。
「あなたが天使に見えます」
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部屋に戻り、鼻水を垂らしながら。
彼は私にこう言った。
「本当はあなたになりたいんです。あなたのような長い黒髪の美少女になりたい。そして、セーラー服を着て、その姿で、殴られたい。歯が折れるまで殴られたいです。」
身体の中身が砂になって、急に下に向かって落ちていく感じがした。
だから私は、私がセーラー服を着ていた頃の話をした。
生成色で紺色のラインが入ったセーラー服。
女子生徒は極端に少なくて、古い古い校舎。
地下へ続く階段、その先の扉は一度も開けたことがなかったこと。
部活で夜遅くまで残って、誰もいない暗い廊下を、革底のローファーで歩いて、自分の足音だけが響く。
皆はゴム底のローファーだからこんな音はしない。
そう思うとゾクゾクしたこと。
彼は顔を真っ赤にさせて汗をかいた。
「そう、そんなところで、あなたになって、殺されたいんです」
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今でも、ケインや鞭で血が滲む程に尻を叩いているとき。息ができなくなり落ちそうな姿を見ているとき。
一瞬だけ、そうされている自分の姿が過る。
一瞬だけ、身体の中身が砂になって、下に向かって落ちていく。
十三花
- 2017/12/03(日) 16:46:34|
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