「タツノオトシゴって、メスがオスの体の中に卵を産んでオスが赤ちゃんを産むんだって」
タツノオトシゴの刺繍が入ったカーディガンを買った。
タツノオトシゴのピアスを作って姉にプレゼントしたことを思い出して、商店街の入り口にあるキラキラしたものが並んでいる店へ入る。
残念、赤いタツノオトシゴのパーツは売り切れ。代わりに白を選んで、でも赤も欲しくて瓶の中を眺めていたら貝を見つけた。
「これも可愛いのよ、」
マダムが話しかける。
赤い貝と、赤が混ざった貝。
艶々の貝殻。
「あなたは情熱的だからこっちがお似合いね」
赤い貝を差し出して微笑む。
そうなんです、私は情熱に満ち溢れてるの、
そんな返事をしておどけてみせたけれど、これはプラスチックじゃないの。
プラスチックの情熱なんてあるのかしら。
大体随分ともう大人なのにプラスチックでいいのかしら。
でもその貝もタツノオトシゴもイタリアから仕入れたって。
イタリアのプラスチックならなんとなくこのまちのプラスチックよりは情熱的だし大人な気がする。
結局のところ私は、白いタツノオトシゴと、赤い貝と、ほんのり赤い貝を買って、まだ明るい商店街をてくてくと後にした。
そして、昔々とても憧れていたひとの肩甲骨にいたタツノオトシゴのことまで思い出した。
夏至の手前の休日のできごと。
Author:十三花(TOMiCA )
拠点を名古屋から東京に移し、SM活動中。
まだまだ勉強中ですが、緊縛が好きです。
楽しいことが大好き。
SM以外の日常的な事も日々呟いています。