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13th floor

特別な日


私が毎日の様に通る場所にその人は立っていた。


肩まで伸びた白髪混じりの髪から覗くイヤリングと、胸の膨らんだ白いフリルのブラウス。手にはスーツケース。



ここは昼下がりの歌舞伎町。


二人でスーツケースを転がしてホテルに入る。




ずっと独りでこんな事をしていたそうだ。ここから近いとも遠いとも言えない様な距離の田舎町で。


フリルのブラウスの中にはイギリス製のしっかり締め付けるコルセットを忍ばせて、くびれができている。


長い髪、大きな胸、くびれたウエスト。



「綺麗な髪ですね、そう、そんなふうに、片方の肩に寄せるのが夢なんです、」



私の黒髪を見つめるその瞳は心底羨ましそうだった。



少し日焼けした肌に色を重ねる。



「やり方がわからなくて」


「どれを買ったらいいかわからなくて」



私だって少女の頃、自分の顔に化粧をするとき、わからなかった。


試行錯誤の末いつのまにか日々の習慣となっていった。


眉毛を描いている時、そんな少女の自分自身を思い出した。




化粧をして、白髪混じりの髪を小さくまとめて茶色いウィッグを被り、ワンピースを着て。


私がいつも通っている歌舞伎町の道を腕を組みながら歩いた。



私にとっての日常の景色。


大きく引き伸ばされたアニメキャラの様なホストの看板、やたらと階段が目立つ商業ビル。



恥ずかしいより、興奮しているより、嬉しい気持ちが混ざっている顔でコーヒーを飲んだ。



加工アプリで撮影したその顔は、少女のようだ。





ホテルに戻り、私はボンデージに着替える。


縄で縛り、鞭を打ち、アナルに拳を挿れて。



そうだ私は昨日も鞭を握っていた。


だけど、この人、彼と言えばいいのか彼女と言えばいいのか難しいこの人は初めての出来事。



彼女、と呼んでみようと思う。


独りで、女性の服を着て、女の子に変身して、別の自分を楽しんでいた彼女。




優しい顔をした人。私は故郷の田舎町を思い出す。


もしかしたらあの小さな町にもこんな人がいたかもしれない。それはわからない。




特別な時間と非日常。


この時間は特別。きっと私が思っている以上に特別。


私は彼女の特別な時間を共有した。



理解していたつもりではいたけれど、彼女の仕草や私への眼差しから、私が思っている以上にこれはとてもとても特別な時間であることを再確認した。





私は、彼女の憧れの長い髪をきちんと手入れしてずっと伸ばしていよう。


もっと素敵になって、ずっと憧れの存在でいようとそう思った。






十三花


  1. 2021/11/24(水) 18:09:15|
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