さっき初めて会ったばかりなのに、鞭を打ち続けた。
細い身体に、少しだけのバラ鞭、そして無数の一本鞭。
只管に鞭を打った。
お仕置きではない。私たちは主従関係なんてまだ無い。
今後できるかもわからない。
ただ、鞭を打たれたい男と、鞭を打ちたい女。
ただ、というのは語弊がある。
この男は、私に鞭を打たれたかった。
四つん這いにさせて一本鞭を打つ。
少しわざとらしい喘ぎ声。
向かい合って鞭を打つ。
見つめ合いながら。
私は汗ばむほどに鞭を振る。
無数の痕。
わざとらしい喘ぎ声は止み、見開かれた目。
私は、怖くなってきた。
私も息が止まる。
穴に落ちていくような感覚、漠然とした恐怖。
怒り出したら?とか泣き出したらどうしよう?なんてそんなのではなくて、
真っ黒い穴にゆっくり落ちていくような、漠然とした恐怖。
でも鞭を振る腕は止まらない。
時が止まったようで、高速で過ぎていくようで。
どれくらいの時間だったのか、何発打ったのかはわからない。でも怖くなる瞬間は確かにあった。
また声が漏れて、ふっと元の時間戻る。
打ちたい女と、打たれたい男。
腕が疲れたことに気づいた私は、私の膝下にその男を呼び、こう聞いてみた。
「さっきね、なんかこわかった。見つめあってる目が見開いて、声が止んで。こわかった。でもやめられなかった」
男は顔を上げて
「入ってました」
と満面の笑みでそう答えた。
打ちたい女と、打たれたい男だったけれど。
私はまた、あなたを打ちたい。
十三花
- 2021/11/08(月) 00:29:26|
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