それはほんの一瞬だったけれど焼きついて離れない。
私がそれを聞く前に自らスラスラと話した。
きっと何度も説明しているのだろう。
幼い頃の出来事、今までどんなことをしてきたか。どなたにお世話になったかまで。
それ。性癖。
「SMに目覚めたきっかけは?」
「初めての経験はいつ?」
「どんなプレイがしたい?」
今まで散々訊いてきたし、訊かれた。
きっかけなんてものは一つに限らないし後から気付くこともいくらでもある。
初めての経験。何を初めてとするのかもよく分からない。
どんなプレイがしたいか。そんなもの、はじめてからでないとわからない。
愚問。
それでも私は限られた短い時間の中で糸口を探すためにそのような質問をする。
分からないのであればそれでいい。
初めて会った日は、性癖のことの他に共通の趣味もありとても話の上手なひとだったのでたくさんお話をして、リクエストの緊縛をしたらあっという間に時間が過ぎてしまった。
元の姿—銀座の画廊かどこかで会ったことのある気がするおしゃれなおじさんの姿に戻って明るいうちにさよならをした。
それから私は自分の性癖のルーツよく考えるようになった。
あんなにスラスラ話せない。
細分化したらきりがない。
頭の中が幼い頃の出来事や、観た、いや観てしまった映画や、聞いた話でいっぱいになる。
それらを整頓する。それはどこから来たのか。何故そうなのか。
そしてまたその人は私の元にやってきた。
幼い頃の記憶をなぞる。
まわしを身につけること。
そしてそれを引っ張ること。
幼い頃の母の記憶。
体を縛る、解く。
向かい合わせになって思い切り上に引っ張ってみる。
高揚する。
そしてじゃれ合うようにベッドに押し倒し馬乗りになった瞬間に。
その恍惚とした表情が。
幼い子供に見えたのです。
それは、記憶の固執が解かれていくような。
その隙間に入り込めたような。
そんな一瞬の表情が焼き付いて離れない。
あの子供にまた会えるように。もっと入り込んでみたい。
Author:十三花(TOMiCA )
拠点を名古屋から東京に移し、SM活動中。
まだまだ勉強中ですが、緊縛が好きです。
楽しいことが大好き。
SM以外の日常的な事も日々呟いています。