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13th floor

秘密の関係


私の腕の刺青も背中の刺青も無かった位、昔の話。


当時私は名古屋のSMバーに在籍していた。

SMバー。 仄暗い店内に蝋燭のあかり。赤い壁に鉄格子。お客さんは、パートナーを連れてくるサディスト、店の女王様に跪くM男性、緊縛に興味を持ち始めた女の子…。
の他に、「面白い飲み屋があるらしいから行ってみよう」という感じの団体さんの来店もあった。所謂ノンケ客である。
特にそのお店はSMショーを開催していたのでそんなお客さんも多くいた。

そのおじさんもそんな、ノンケ客のうちのひとりだった。

初めて来店した日は覚えていないけれど、そのおじさんはいつも深夜にひどく酔っ払って店の扉を開いた。

部下の様な子分の様な人を数名連れて。

私はとても気に入られていて、「こいつは俺の友達だからな!」と連れている部下の様な子分の様な人たちに紹介されていた。

(後に聞いた話だけれど、私が「女の子もオナニーするんだよ」と教えてあげたからすごい事を教えてくれる良いやつだ!となり友達になったらしい)。

私のするSMの話や変態の話が彼にとってはとても新鮮だったのだろう。

沢山のお酒を飲み、私も沢山頂き、高級なボトルを入れ、私にチップを渡し、いつもあっという間に帰っていった。


ある日そのおじさんは色の白い、とても美しい女性を連れてきた。

おい、こいつをいかせてやってくれ。

私は彼女を縛り、鞭で叩いた。

初めての時にすぐに悟った。この女性はこんな事したくないんだろうな。愛人が、お気に入りのホステスさんか。何かだろう。
申し訳ない様な、なんとも言えない複雑な気持ちになった。

おじさんはそれを見てとても上機嫌で、彼女に「お前もこんなのが好きか?」と聞きそれに彼女は「はまっちゃうかも」なんて答えていた。

その日はいつもよりチップが多かった。


それからおじさんは度々その女性を連れてくる様になった。

なんだかな。これはSMなのかな。いや違うよな。

またおじさんの指示が来た。
私はおじさんにバレないようにこっそり
「そんなに強くやらないから、オーバーに痛がるときっと喜ぶよ」と彼女の耳元で囁いた。

彼女にSMの悦びを教える程のスキルも度胸もなかった。兎に角スムーズに終わればいい。

彼女が果てると、おじさんはとても喜び、また仲間たちと酒を飲んだ。

カーテンを閉めて私は縄の片付けを、彼女は服を着ている時。
彼女から私に話しかけてきた。

「私あの人の愛人でさ、マンションとかも借りてもらっててさ」

「実は最近彼氏ができたんだけど、あの人は知らなくてさ、彼氏もあの人のこと知らなくて」

SMをしてる「フリ」をしている2人の秘密の関係。

SMではない、信頼関係?

そんな夜が続いた。

私からもつい
「ごめんね、ほんとはこんな事好きじゃないんでしょう?」

と聞いてしまった。

「全然好きじゃないけど、あんたのことは嫌いじゃないよ」

えへへ、ありがと。
なんて照れ隠しに笑ったけど、すごくホッとしたのをよく覚えている。



まるでおじさんが悪者みたいに思えるかもしれない。
だけど私はそのおじさんのこともその女性のことも好きだった。
船や高級車や桁違いの自慢話をする癖に、私の話には 「お前すげーな!」と子供の様に驚き、喜んだ。
時々聞く昔の苦労話も凄く勉強になった。

そのおじさんの部下の様な子分の様な人たちも私はおじさんの「友達」なので、一目置かれるというか、とても丁寧に扱ってもらえた。




その店を辞めてからは、おじさんは勿論、彼女にも会っていない。


もうあんなこと二度としたくないな。
だけど、時々ふっと思い出すんだ。

2人きりになった時の彼女の、「ふつうの女の子」になった時の顔。

  1. 2021/08/24(火) 23:13:23|
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十三花(TOMiCA )

Author:十三花(TOMiCA )
拠点を名古屋から東京に移し、SM活動中。
まだまだ勉強中ですが、緊縛が好きです。

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