私の腕の刺青も背中の刺青も無かった位、昔の話。
当時私は名古屋のSMバーに在籍していた。
SMバー。 仄暗い店内に蝋燭のあかり。赤い壁に鉄格子。お客さんは、パートナーを連れてくるサディスト、店の女王様に跪くM男性、緊縛に興味を持ち始めた女の子…。
の他に、「面白い飲み屋があるらしいから行ってみよう」という感じの団体さんの来店もあった。所謂ノンケ客である。
特にそのお店はSMショーを開催していたのでそんなお客さんも多くいた。
そのおじさんもそんな、ノンケ客のうちのひとりだった。
初めて来店した日は覚えていないけれど、そのおじさんはいつも深夜にひどく酔っ払って店の扉を開いた。
部下の様な子分の様な人を数名連れて。
私はとても気に入られていて、「こいつは俺の友達だからな!」と連れている部下の様な子分の様な人たちに紹介されていた。
(後に聞いた話だけれど、私が「女の子もオナニーするんだよ」と教えてあげたからすごい事を教えてくれる良いやつだ!となり友達になったらしい)。
私のするSMの話や変態の話が彼にとってはとても新鮮だったのだろう。
沢山のお酒を飲み、私も沢山頂き、高級なボトルを入れ、私にチップを渡し、いつもあっという間に帰っていった。
ある日そのおじさんは色の白い、とても美しい女性を連れてきた。
おい、こいつをいかせてやってくれ。
私は彼女を縛り、鞭で叩いた。
初めての時にすぐに悟った。この女性はこんな事したくないんだろうな。愛人が、お気に入りのホステスさんか。何かだろう。
申し訳ない様な、なんとも言えない複雑な気持ちになった。
おじさんはそれを見てとても上機嫌で、彼女に「お前もこんなのが好きか?」と聞きそれに彼女は「はまっちゃうかも」なんて答えていた。
その日はいつもよりチップが多かった。
それからおじさんは度々その女性を連れてくる様になった。
なんだかな。これはSMなのかな。いや違うよな。
またおじさんの指示が来た。
私はおじさんにバレないようにこっそり
「そんなに強くやらないから、オーバーに痛がるときっと喜ぶよ」と彼女の耳元で囁いた。
彼女にSMの悦びを教える程のスキルも度胸もなかった。兎に角スムーズに終わればいい。
彼女が果てると、おじさんはとても喜び、また仲間たちと酒を飲んだ。
カーテンを閉めて私は縄の片付けを、彼女は服を着ている時。
彼女から私に話しかけてきた。
「私あの人の愛人でさ、マンションとかも借りてもらっててさ」
「実は最近彼氏ができたんだけど、あの人は知らなくてさ、彼氏もあの人のこと知らなくて」
SMをしてる「フリ」をしている2人の秘密の関係。
SMではない、信頼関係?
そんな夜が続いた。
私からもつい
「ごめんね、ほんとはこんな事好きじゃないんでしょう?」
と聞いてしまった。
「全然好きじゃないけど、あんたのことは嫌いじゃないよ」
えへへ、ありがと。
なんて照れ隠しに笑ったけど、すごくホッとしたのをよく覚えている。
まるでおじさんが悪者みたいに思えるかもしれない。
だけど私はそのおじさんのこともその女性のことも好きだった。
船や高級車や桁違いの自慢話をする癖に、私の話には 「お前すげーな!」と子供の様に驚き、喜んだ。
時々聞く昔の苦労話も凄く勉強になった。
そのおじさんの部下の様な子分の様な人たちも私はおじさんの「友達」なので、一目置かれるというか、とても丁寧に扱ってもらえた。
その店を辞めてからは、おじさんは勿論、彼女にも会っていない。
もうあんなこと二度としたくないな。
だけど、時々ふっと思い出すんだ。
2人きりになった時の彼女の、「ふつうの女の子」になった時の顔。
- 2021/08/24(火) 23:13:23|
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