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13th floor

ジュンくんちのお姉さん




私が小学校に上がる前までに暮らしていた家のお向かいに、ジュンくんという4つか5つくらい上の男の子が暮らしていた。


ジュンくんはお兄さんだし、近所には同い年の女の子が何人も暮らしていたから、ジュンくんと遊ぶ機会はそんなになかったけれど。


ジュンくんの家にはジュンくんのお父さんとお母さんと。そしてお姉さんが一緒に暮らしていた。

「ジュンくんのお姉さん」ではなく、「ジュンくん'ち'のお姉さん」と呼ばれていたし、私もそう呼んでいた。

ジュンくんの本当のお姉さんではない。

そんな噂を聞いたけれど。

本当のお姉さんじゃないということはニセモノなの?当時はよく解らなかった。




ジュンくんのお父さんとお母さんは、まちの大きな中華料理店で働いていた。

お姉さんはそのお店のウェイトレスだった。

夜、たまにそのお店に家族で食事に行くと、お姉さんが笑顔で「いらっしゃいませ」と迎えてくれるのだ。

真っ赤な、艶々のチャイナドレスに身を包んで。
ふわふわの茶色い巻き髪と、スラリと細い体に、チャイナドレス。

私はチャイナドレス姿のお姉さんを見ると、ドキドキした。

大きなメニュー表、回転テーブル。

華奢な指で並べられる中華料理。

目の前の料理よりも、私はお姉さんばかり見ていた。





そんなお姉さんは、丘の上の、同じような大きさの家が並ぶ、静かな住宅街には似合わなかった。


家の前で、近所の女の子たちと縄跳びやケンケンパやセーラームーンごっこをして遊んでいると、たまにお姉さんが車で出かけていく姿を見た。

ネイビーブルーのかっこいい車。BMW。

私はセーラームーンなんかよりずっとずっとお姉さんに憧れていた。

にっこりと笑いかけてくれる、大人の女性。




巻き髪、チャイナドレス、BMW。



幼い頃の記憶。

きれいなお姉さん。

不思議なお姉さん。

妖しいお姉さん。

憧れのお姉さん。

ジュンくんちのお姉さん。






私はすっかり大人になって、きっとあの頃のお姉さんよりも歳上になった。


チャイナドレスに袖を通した時。

お姉さんの妖しい笑顔が浮かんだ。


私はお姉さんの、名前すら知らない。








十三花
  1. 2018/10/29(月) 08:38:22|
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