「幸せ時間を過ごさせて頂きありがとうございました」
彼女はさよならする時にそう言って頭を下げた。
しあわせな時間ですって。
なんだかとても、いいじゃないの。
言われてとても気分が良かった。
私も誰かとさよならするときにそんな事を言ってみたい。
確かに私たちは幸せな時間を過ごした。
以前会った時とは随分と雰囲気が違った。お上品か奥様、そんな雰囲気の女装姿だった彼女。
派手な花柄の丈の短いワンピースに網タイツ。
派手なアイメイク。
夏に私が試しにやって遊んでみた平成初期のファッションの写真に触発されたそうだ。
きっとさっき着たばかりなんだろう。
この部屋に来てから。
すぐに脱がす訳にはいかない。
その質感を、締め付けを、じっくり感じる時間も必要でしょう。
その姿のまま皮のマスクを被せ、手足を拘束した。
彼女がどんな気持ちで女性の姿に変身しているのか、私はまだ知らない。
心が女性なのか、変身願望があるのか。
女性の姿になった自分に興奮するのか。
いつからしているのか。
変身する前の姿を一度も見ていない。
沢山の言葉を交わしたわけではない。
縄を這わせた時に指先に伝わる熱や、荒くなっていく呼吸。
私はそれらをゆっくりと味わうように確かめる。
すっかりと果てベッドに横たわる彼女の横に私も寝てみて、手に触れてみた。
それは確かに幸せな時間だったのです。
きっとこれから、もっともっとそれは幸せな時間になることでしょう。
Author:十三花(TOMiCA )
拠点を名古屋から東京に移し、SM活動中。
まだまだ勉強中ですが、緊縛が好きです。
楽しいことが大好き。
SM以外の日常的な事も日々呟いています。