「前回久しぶりに調教頂き、今まで生きてきたなかで最も満たされた時間を過ごせました。」
受付から届いた予約の連絡には最後にこう綴られていた。
今まで生きてきた中で最も満たされた時間なんて。
少し大袈裟なんじゃない?
と思いながらも私は何度もそのメッセージを読み返した。
薄暗い部屋。
跪いて額を床につけると背中からも肋がくっきりと浮くほどのその痩せ細った身体は、もうそれだけで充分なほど被虐的だった。
私はその骨と骨の間の撓みを人差し指でそっとなぞってヒトの質感を味わった。
それだけで震え出す体。
長い前髪を掴んで前を向かせるとじっとりと濡れた瞳が一瞬私を見て、またすぐに下を向いた。
手を拘束して髪を掴んでペニバンを喉の奥に乱暴に突っ込む。
涎や涙や様々な体液を垂らしながらえづいているのに身体はみるみる興奮していく。
「男性としての尊厳を踏み躙ってください」
受付からの連絡にはそんな事も書いてあった。
その姿を見下ろしながら「男性としての尊厳なんてどこにあるの?元々なかったかもね?」と囁いたらさらに固くなっていった。
それからレザーの全頭マスクを被せて放置したり、全身を麻縄で拘束して尻が黒くなるほど何度も一本鞭を打ったりして、私たちは各々の黒い部分を共有した。
心の中の澱のようなものが薄暗い部屋に舞う。
それは汚くて、でもキラキラしていて、誰にでも見せていいものではない。
そしてお互い元の姿に戻る。
「前より凄かったです、こんなことした後なのに外に出たら明るいんですよねまだ。罪悪感が…」
そんなことを言うので
「罪悪感、それは、何に対して?パートナー?それとも、世の中に?自分に?」
ときいてみた。
「うーん、パートナーはいないので…自分に対してですかね」
「そう、外に出たら明るくて、暖かくて、風が吹いていて、しかも5月だよ」
もう少し休んでいくと言う彼を残して私は部屋を出た。
明るいどころか眩しい5月の日差しに日傘
を広げる。
風が私の髪を乱していく。
このまちで10年、人生では15年こんなことをずっとしている私にも多少の罪悪感はある。
「こんなこと」をしなくては満たされないわたしたち。
なんて、かわいそうで、罪深い。
わたし ではなくて わたしたち であること。
日傘を持つ私の指にはまだ、肋の間の撓んだ皮膚の感触が残っていて、そんなかわいそうで罪深い自分が私も彼もきっと堪らなく好きなんだろうなと思いながらゆっくりと黒い澱を沈めて、まだ明るい街に溶けていった。
Author:十三花(TOMiCA )
拠点を名古屋から東京に移し、SM活動中。
まだまだ勉強中ですが、緊縛が好きです。
楽しいことが大好き。
SM以外の日常的な事も日々呟いています。