それはそれ これはこれ
白髪混じりの長い髪が風に揺れる。
ミニ丈のメイド服、編み上げのブーツ。
お着替えした?違う。この格好で来たんだ。
昼下がりの歌舞伎町。カフェに入る。
サロンでメイクをしてもらって、その表情はいつもに増して華やか。長いつけまつげ。
コーヒーを飲みながら、自らを嬉しそうに撮影する。
少しお散歩してみましょう。
背筋を伸ばして、まだ明るい歌舞伎町を颯爽と歩くその堂々たる姿。
なんてかっこいいんだ。そして美しい。
思わず、訊ねる。
「もしかして、ただ可愛い服が着たいだけで、'こんな格好見られちゃって恥ずかしい!'とかそう言ったマゾヒズムは伴ってないよね?」
「そうです、可愛い服が着たいだけです!」
やっぱりそうなんだ。私の今日履いている水玉スカートとおんなじだね。
可愛い服着たいよね。
誰になんと言われようと。
誰のためとかじゃなくて、自分のために。
自分の気分が良くなるから。
なにそれ、ステージ衣装?
今日はパーティーでもあったの?
すっぴんの方が可愛いのにどうしていつもそんな真っ赤な口紅塗ってるの?
そんなハイヒール履いて疲れないの?
どうしてそんなに髪を伸ばしてるの?
なんで髪染めないの?
私だって散々言われてきた。
でも自分が可愛いと思った服を着て、素敵だと思う化粧をして、かっこいいと思うハイヒールを履いて、似合うと思う髪型にしてるだけだ。
ずっと続けていたら、いつのまにか誰にも言われなくなった。
それは誰かに褒められたいとか、そんなんじゃないんだ。 ボディラインが出る服だって、いやらしい目で見られたい訳じゃなくて、いいと思ったらから着る日がある。
それと同じだ。
部屋に入り、シャワーを浴びて出てきたその姿は全裸だった。
これからはこの時間。
これは、これ。
お散歩していた姿、それは、それ。
そして、時間になり、またメイド服を着た彼女は、私をフロントまで送ってくれた。
歌舞伎町はすっかり夜。
私の水玉スカートとおんなじ。
一段と冷えた空気に、ほんのりネオンが滲んだ。
十三花
Author:十三花(TOMiCA )
拠点を名古屋から東京に移し、SM活動中。
まだまだ勉強中ですが、緊縛が好きです。
楽しいことが大好き。
SM以外の日常的な事も日々呟いています。