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13th floor

思い出を思い出せない夕暮れ





後ろ手に縛り、梁に固定した上半身。両脚は閉じるように縛る。


8階にあるその部屋には大きな窓がある。


部屋の灯りをパチンと消してみた。


夜になる手前の空、まちの街頭。

明治通りを走る車の音、クラクション、遠くに消えていくサイレン、雑踏の騒めき。


夕闇。


真っ直ぐに姿勢良く立っているように見えるその後姿。

私より20以上歳上の男のひと。

庭に咲いたいいにおいのする花をくれるひと。


の、微かな呼吸が聞こえる。


私は何かを思い出した。


心臓の表面を滑らかな指先でそっと撫でられているような感覚。


そしてその指先はほんの少し爪を立てる。

血の気が引いているのか、漲ってきているのか、どちらなのかわからない。


車の走る音、雑踏の騒めき、遠くへ消えていくサイレン、微かな呼吸。


自分の心臓の音。


何かを思い出しているけれど、何を思い出しているのか思い出せなくて不安になる。


心臓の音はどんどん大きくなる。



私の目は夕闇に飲み込まれて、さっきまでみえなかったものがしっかり見えるようになる。


縄を解いて、灯りをつける。



思い出した。


私は幼い頃、誘拐に憧れていた。


こんな夕暮れ時に、まだ会ったことのない誰かが、私の知らない世界に連れて行ってくれるんじゃないか。


そうだ、誘拐を待っていた。


公園のベンチ、微かに揺れる誰も乗っていないブランコ、遠くから聞こえる誰かの声。


部屋の灯りを消したのはほんの数分にも満たない。



だけど思い出を思い出せずに記憶の糸を探っていたその時間は、永遠の手前。
  1. 2018/04/28(土) 03:38:32|
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