当時、私はSMバーで働いていた。
そこで出逢った歳上のS女性。
彼女はその店のお客さんだった。
スレンダーで、華やかで聡明な顔立ち。
それでいてとても気さくで、面白くて。
何をしても器用で。
そんな彼女に私は少し憧れていた。
彼女は偶に飼っているM男性を連れてきた。
彼女に飼われているM男性は何人もいたけれど、皆名前は一緒だった。
その名前を、仮にリュウとする。
何故、皆リュウさんなんですか?
わたしは彼女に訊ねた。
「初めて飼ったM男の名前がリュウだったの。だから、それからM男は皆、リュウなの。」
ある日、彼女はいつもの様に男性を連れてきた。
いつものカウンターの端の席に座るなり、彼女はこう言った。
「彼はS男性だから、よろしくね。S仲間なの。」
彼女よりも随分と歳上に見えるその男性は、自身の性癖のことーどんなM女性が好きか、どんなふうに責めると興奮するかーを、酒を飲みながら私に、彼女に、沢山話した。
彼女は、いつものM男性と接するときとは少しだけ違う様な感じがした。
その男性をすこし持ち上げる様な、そんな風だった。
大人のサディスト2人の話はとても面白かった。
いつの間にか私は2人の話に頷くだけになってしまっていた。
あっという間に時間は過ぎた。
「リュウさん、そろそろ帰りましょうか、」
彼女は帰り際に初めてその男性の名前を呼んだ。
「リュウ」
その名前は。
2人を見送りながら、私の内側はどんどん熱くなっていった。
その二人がどうなったのかは、私は知らない。
きっと、その男性は、自身が気付かぬうちに、どんどん堕ちていって、彼女のM男になるんだろう。
彼女の掌の上で。
そう思うと私はもっと高揚し、彼女のことがもっともっと好きになった。
これは、わたしがSMの世界に飛び込んで間もない頃のおはなし。
十三花
- 2017/02/12(日) 16:52:54|
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